ゴ退治

生まれて初めてゴ(フルネームで書くのもおぞましい生き物のこと)というものを殺した。もちろん今までに不法侵入されたことはあるけれど、いつもゴ退治要員に処理してもらっていた。

しかーし、昨夜私が一人のときにゴは出たのだ。すぐさま電話でゴ退治要員を召集し、駆けつけるまでの間、見逃すまいとゴを見張って待っていたのにゴ退治要員はなかなかやって来ない。
そんな中電話が鳴る。「この非常事態に!」と思いながら何とか受話器に手を伸ばして出てみるとゴ退治要員からだった。「ゴ退治スプレーを買いに探し回って疲れたから、下までとりに来い」と。そっそんなっ!目を離した隙に見逃してしまいうではないかっ!

5分後、スプレー片手に私は格闘していた。
そして9時40分10秒、ゴはご臨終あそばした。

もともと半分弱りかけていて、ゴ特有のすばしっこさに衰えがみえていたゴだったけれど、それでも私は「これでもかっ、これでもかっ」ととどめをさすように噴霧し、私自身もしばらく固まってしまった。おもしろいことに、コマーシャルどおりゴは仰向けになって足をしゃわしゃわさせて弱っていく。普通ならその後紙に包んで捨てるのだろうが、近づいた途端息を吹き返してしゃわしゃわ動き出すのではないかと想像してしまうと、間接的にせよゴに触るなんてとてもできない。そうかといって私もそのまま一晩中固まっているわけにはいかないので、新聞を上からかぶせ、飛ばないように四方に石を置いておくことにした。それでもふり向いたらゴの仲間が逆襲に来るんじゃないかとか、夢の中で巨大ゴになって襲ってくるんじゃないかという、ばかばかしい不安が募る。ゴ退治商品のコマーシャルで時々、ゴの着ぐるみを着ている人がいるけれど、私にはできない、おぞましい仕事だ。再度ゴ退治要員に出動要請し、ごみ袋に処理してもらったが、ごみの日まで後二日もある。ごみ袋の中でもう「ひとしゃわ」しているかもしれない。それぐらいの生命力はあるであろうゴ、そのごみ袋一帯には近寄りたくない。

ある晩、お風呂に入ろうとすっぽんぽんの状態でゴと目が合ってしまったことがあった。すっぽんぽんという無防備な状態でのゴ対面には、情けないほど何もできないもので、ゴ退治要員に出動要請したところ「騒ぐな、ゴだって生きている」といって動こうとしない。私の持論では、人間よりも歴史の長いゴは人間以上にたくましく生き延びるだろうし、地球上の人口以上に多いだろうゴは、目に付いた範囲で殺したところで生態系を狂わすことはないだろう。それなのにゴ退治要員は、坊さんか仙人のようなことを言って…!「こっこんな人とは一緒に暮らせないっ!」

ゴ退治要員に告ぐ。
浮気とゴの放し飼いは私の知らぬところでこそこそ、しゃわしゃわするように。