父の味

「男子厨房に入るべし!」の父、その父の味で思い出すものにご汁がある。
たまになので一層おいしく感じるこのご汁、私は大好きだった。
晩、水に浸った大豆を見ると、明日の朝はご汁じゃないかとわくわくする。
目を覚ますと、いつもより少々早起きした父からは、おいしそうな音が聞こえてくる。

ごりぐりごりぐり、ごろごろごろ、ごりぐりごりぐり、ごろごろごろ。

布団の中から耳を澄ます私。
それは大豆をすりこ木で潰す音。
もう、その音からしておいしそう。
「あぁ、やっぱり今朝はご汁だっ!」と飛び起きる。
ご汁の醍醐味は、このすり鉢で潰した不揃いのつぶつぶ感にある。

ざらごりぶつぷつ、ざらごりぶつぷつ。

口の中で想像しながら学制服に着替える。
もう、その食感を思い浮かべるだけで食欲が湧いてくる。
ミキサーで潰した大豆では、細かくさらさら滑らか過ぎる。
やはりすり鉢のご汁にはかなわない。
しばらくすると、だしの香りに味噌が加わり漂ってくる。
もう、その香りからしておいしそう。
朝の支度をすませると、そろそろご汁にありつけるいい頃合だ。
食卓につくとお椀の中には、ざらごりぶつぷつに混じって、いかにも男のぶつ切りといった葱が浮かんでいる。
いつもより丁寧に手を合わせ、いつもより勢いよく挨拶し、最初の一口をいただく。
「あぁぁぁ」 音よし、味よし、香りよし。これが父の味だ。